過失があれば損害賠償は減額される
過失相殺とは?
被害者に過失があった場合、損害賠償の金額が減額される仕組みのことです。
過失が大きければ、下手をすると損害賠償額がゼロに近かったり、最悪は相手に支払う損害賠償の方が大きくなることも考えられます。
つまり、過失は請求額や交渉における立場の強さに大きな影響を及ぼします。
示談に当たっては、過失割合は必ず押さえておかねばならないポイントのひとつです。
過失相殺が重要な保険の種類
過失相殺が問題になるのは、主に任意保険です。
自賠責保険は少々の過失があっても減額されず、かなりひどい過失でもある程度出ることが多いです。
これは自賠責保険が「最低限の救済」を補償する、社会的な位置づけの強制加入保険だからです。
具体的に言うと、死亡や後遺障害に関しては、重大な過失がある場合も過失割合は20%・30%・50%のいずれかと定められています。
死亡や後遺障害の場合、自賠責については最悪でも半分はもらえるわけです。
しかし、任意保険は極めてシビアに過失相殺してきます。
過失相殺の具体例
過失相殺の計算を実例で理解しましょう。
例1 歩行者と自動車の事故
歩行者が横断歩道を渡っている時に車と接触しました。
歩行者は黄信号で横断開始、自動車は青信号で進入したとします。
この場合、歩行者と自動車の過失割合は30% : 70%と判定されるのが通例になっています。
つまり歩行者の損害賠償額は30%減額されて、70%になります。
治療費から慰謝料に至るもろもろの損害賠償の総額が100万円だったとすると、30%の過失があるために、受け取れるのは70万円です。
歩行者が赤信号で横断開始、自動車は青信号で進入した場合には、歩行者の過失割合は60%にも達します。
どんなにひどい後遺症が残ろうと、死亡しようと、被害者の過失が大きければ、損害賠償は大きく減額されてしまいます。
例2 自動車同士の事故
A車とB車が接触事故を起こし、過失割合が20%80%だった場合、損害賠償額は下表のようになります。
項目名1 |
A車 |
B車 |
---|---|---|
過失割合 |
20% |
80% |
損害実額 |
300万円 |
100万円 |
過失相殺後の損害額 |
300万円×80%=240万円 |
100万円×20%=20万円 |
AからBへの支払いが20万円、BからAへの支払いが240万円となります。
よって、差し引きして240-20=220万円をBからAに支払うことになります。
この計算例で数字をいろいろ変えてみるといろいろなことがわかると思います。
例えば、加害者のひどい過失で事故になったが、加害者自身も大きなダメージを受けたとします。
後遺障害が残ったり、死亡したりして、当方より損害賠償額が非常に大きかったとします。
その場合、相手の過失割合が非常に大きくても、こちらが相手に払うお金の方が大きくなる場合もありえます。
ここでも、過失割合をしっかり把握していないと、まともな示談ができないことがよくわかると思います。
ケース別の過失判定基準
さて、過失相殺の考え方は大体わかったと思いますが、実際に過失が何%というのは、何を基準に決めるのでしょうか?
実はいろいろな事故のケースが場合分けされて、標準的な過失割合が整理された資料が作られています。
判例タイムズ社の「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。
過失相殺率の認定基準の例: 横断歩道上の事故の場合
歩行者 |
車 |
歩行者過失割合 |
---|---|---|
青で横断開始 | 青で進入 |
0% |
青で横断開始 | 赤で進入 |
0% |
黄で横断開始 | 青で進入 |
30% |
黄で横断開始 | 黄で進入 |
20% |
黄で横断開始 | 赤で進入 |
10% |
赤で横断開始 | 青で進入 |
60% |
赤で横断開始 | 黄で進入 |
40% |
赤で横断開始 | 赤で進入 |
20% |
上記のような表が、さまざまな状況設定で作られています。
- 横断歩道に近い場所を横断していた場合の事故
- 幹線道路を歩行者が横断していた場合の事故
- 歩行者が路上に寝ていた場合の事故
- 歩道上の事故
- 直進車同士の事故
- 直進車と右折車の事故
- ガレージ内の事故
- ・・・
それを基に過失相殺を検討していくわけです。
このあたりの交渉は専門的なことになりますが、大まかな仕組みだけは理解しておきましょう。
交渉は弁護士に依頼する方が得策です。
過失が少ない場合こそ、むしろ十分な額が取れるように、弁護士を入れることをお勧めします。